奏者必見の本「楽器博士 佐伯茂樹がガイドする オーケストラ 楽器の仕組みとルーツ」
音楽の友社出版の「楽器博士 佐伯茂樹がガイドする オーケストラ 楽器の仕組みとルーツ」という本を読みましたので感想を書きます。
はじめに
この本は「これだけは知っておきたい!」というサブタイトルの割に内容は深い感じがしました。冒頭からルネサンスフルートやバロックフルート、そしてバセットホルン、バセットクラリネットといった通常使わない楽器の話題で始まるぐらいですから。
この本では各楽器について深く掘り下げているので、最低限オーケストラの楽器を一通り知った上でないと理解しづらいかもしれません。したがって基本的には中・上級者向けかなと個人的には思います。
もちろん初心者も担当楽器を中心に様々な楽器の知識を深めることができるので役立ちます。音楽経験が増えるにつれて段々と分かることが増えていく楽しみがあるはずです。
私はファゴットやコントラファゴットに留まらずファゴッティーノやバソンも所有して楽器マニアと言われても否定できない位の楽器好きなのですが、とても楽しんで読むことができました。
本に書いてある内容の例
本に書いてある内容の一例はこのような感じです。
- 木管楽器であるフルートはなぜ金属製になったか
- イングリッシュホルンは木管楽器なのになぜホルンが付くか
- バスクラリネットはなぜLowCの楽器があるか
- キー機構が充実した現在でもクラリネットがBb,A管を持ち替えるはなぜか
- コントラファゴットはなぜ一時期姿を消したか
- サキソフォンはいつ頃オーケストラで使われるようになったか
- ホルンはなぜベルに右手を入れるか
- 昔と今のバストロンボーンの違いは何か
- フランスの作曲家のチューバの音域が高いのはなぜか
- ヴァイオリンはなぜ形を変えず400年間生き残っているか
- コントラバスに五弦の楽器があるのはなぜか
読んで感じたこと
前述に挙げたような一般的な疑問に対しての回答が示される中で、各楽器の歴史、構造、役割などについての理解を深めることができました。かなり深い内容も含んでいて楽器好きとしても知らない事が多く、興味深く読むことができました。
楽器達は狩猟の信号、宮廷音楽、協会音楽、オーケストラ、軍楽隊(吹奏楽)と様々な場面で使われてきました。どんな楽器にも演奏する場所、楽器製作技術、好まれる音楽の変化と共に個性的な歴史があることが分かりました。ピッコロとフルートのようにたとえ同属楽器であっても、それぞれ異なった歴史をたどっているのです。楽器達は思った以上に多様性があるものです。
新しい楽器は合理的で便利だが、進化で得るものがある一方で失われるものもあることが分かりました。現在の管弦楽や吹奏楽などで当たり前のように使われている「完成された」楽器達が、進化の一方で失われたものは何でしょうか。
例えば大きな音が出ないことや音色にムラがあることもその楽器本来のキャラクター。現代の楽器は音量が大きくて均質で操作が簡単になっていますが、その楽器で奏でる音楽が優れているのかというと、むしろ盲目的になっているのかもしれない。便利になった現代の楽器は深く考えなくても演奏ができる手軽さがある分、表面的な演奏になってしまっていないだろうか。ピリオド楽器を知り当時の作曲者の意図をくみ取ることで、より音楽の理解を深める事ができます。
ファゴットに関して言えば、バソンがファゴットに置き換わったのも音量の大きさ、音程の正確さが求められた時代の流れとはいえ、フランスの作曲家の曲を演奏する時はバソンの事を知ろうとすることも大事です。そうでないとフランス料理に何の疑問もなくドイツの味付けをしていることになってしまいます。このように、それぞれの楽器について考えてみると良いと思います。
おわりに
この本は楽器の解説という切り口ではありながらも、演奏する上でとても大事な事を提起しているように思えました。
演奏している楽器そのものをより客観視して知らないと、それを利用して成り立っている音楽についてより深く追求することができません。ぜひ音楽に深く関わりたい人の手に渡ってほしい本です。