吹奏楽にファゴットは必要か?と疑った時に推察される3つの問題点
「吹奏楽にファゴットは必要か」はよく話題になります。吹奏楽、管弦楽、室内楽でファゴットを年中演奏して豊かに生きている人間として、吹奏楽におけるファゴットの存在意義について書きます。
・Myファゴット
3つの問題点について
吹奏楽の中でファゴットは存在意義を疑われる状況になりやすい楽器です。特に「音量が小さい」「聞こえない」と言われることがその要因だと思います。
本当に吹奏楽にファゴットはいらないのでしょうか?
その問題を考える上では「スクールバンド」と「吹奏楽」自体を分けて考える必要があると思います。
私見では、以下3つの問題点があると思います。
- 1.選曲の問題
- 2.編成人数とバランスの問題
- 3.ファゴット奏者の技術と認識の問題
今回はそれについての自分なりの考えを書いていきます。
(1) 選曲の問題
大人になり様々な一般吹奏楽団で演奏した経験から、スクールバンドは特殊な環境だったと感じます。例えばファゴットが活躍しづらいマーチやポップス曲の比率が大きい、オーケストラ曲は派手な楽章しかやらない等。
それは学生向けのレベル的、教育的要素を含んだ選曲の偏りにより、「吹奏楽」本来の概念のほんの一部しか経験していなかったのです。結果として元気で派手で埋もれやすい安易な構造の曲、つまりファゴットが主体的に活躍することがない曲が選ばれているのです。
一方で吹奏楽オリジナル曲でもファゴットを重用している作曲家がいます。例としては次に挙げる作曲家で、作品自体も魅力的で素晴らしいです。
- A.リード
- J.バーンズ
- P.スパーク
- J.デ=メイ
安易にサウンドを分厚くせず、様々な楽器が浮き立つような作りになっており、ファゴットも重要な1つの色としてしっかり扱われています。大音量のトゥッティを除き、決して「聞こえない」「必要ない」という感覚にはなりません。
・ファゴットが活きるかは選曲が大事
またファゴットの本領はオーケストラです。オーケストラはフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットの4つの木管楽器がソロ楽器として際立ちます。吹奏楽オリジナル曲と比べてファゴットもソロや目立つ部分が多くなっています。オリジナル曲にはない繊細な表現を求められることも多いです。
中高生らしい元気な曲も良いですが、それは吹奏楽の魅力の一部に過ぎません。バランスを取りファゴット奏者にとってもやりがいがあるこれらの曲も演奏曲に加えてみてはいかがでしょうか。楽団としての音楽の幅も広がります。
(2) 編成人数とバランスの問題
管楽器は出そうと思えば大きな音、荒々しい派手な音を出すことができますが、それを許しては自己満足的な演奏でしかありません。派手な曲はお客さんにインパクトを与えますが、美しい音色を奏でられる沢山の楽器が集まっている吹奏楽ができることはそれだけではありません。
吹奏楽は単に楽器を持ち寄ったアンサンブルではなく、吹奏楽としての適切な編成バランスに整える必要があります。スクールバンドでは特にサックス、トランペットなど大きな音を出せる楽器ほど人気かつ所有率が高いために多くなりがちですが、楽器がある範囲でファゴットを含め不足しがちな楽器にコンバートをするべきです。
そして人数が多いパートがあった場合、常に全員で吹くのではなく、音量を落とす所は人数を減らしてバランスをとるべきです。吹奏楽、特にスクールバンドはどうしても「全員参加」になりがちですが、オーケストラのように降り番を作ることも選択肢です。
・人数バランス、サウンドバランスが大事
大きな音を出せる楽器が派手に雑に吹きすぎないことも大事です。ギャルドや東京佼成ウインドオーケストラなどを聞くと、世間の吹奏楽は基本的に力み過ぎだと感じます。ぜひプロの演奏は聴いてほしいです。
吹奏楽は個々の主張競争ではなく、皆で調和した1つの作品を作る表現作業です。1人1人が自分の音を聞かせようと発散するのではなく、全体のサウンドイメージを描いてそこに音を置きに行くと考えるとどうでしょうか。
サウンド全体が吹奏楽本来の適正な音量バランスにならないとファゴットは埋もれた感覚が強くなり、力みすぎて音色を損ねます。大きすぎるパートがないか、セクション練習をする等して基礎サウンドが適正なバランスになっているかを再確認してみると良いと思います。
(3) ファゴット奏者の技術と認識の問題
ファゴット奏者も「ファゴットらしい音」を崩さない範囲で、腹筋を使ってしっかり息を吹き込み、楽器全体をよく響かせて吹く必要があります。ファゴットは「聞こえづらい」という先入観がありますが、それに甘えずに1つの音の色として主体的な意識を持って演奏する必要があります。
リードの状態にも大きく左右されるのでリードの調整法もとても重要です。技術的に難しい楽器のためレッスンを受けるのが理想ですが、せめて先輩がいれば基本事項は受け継ぐことができます。このように安定したファゴット奏者の育成が重要です。
・ファゴットらしい音でしっかり吹き込む練習が必要
そしてファゴットはトランペットやオーボエ、ポップスのサックス等のような単独で目立つキャラクターの楽器ではないことも理解すべきです。曲によりますが、ファゴット単独で動くということはあまりなく、「どうせテナーとユーフォと一緒」のような認識に陥りがちですが、そこには認識の問題があります。
ファゴットは基本的に同じ動きの楽器と一体化して溶け込みます。ファゴットという柔らかく優美な音色を付け加えて響きを増しているのです。響きが立体的になり、中音セクションではテナーサックスだけ、ユーフォニアムだけよりも断然豊かな響きです。
低音セクションでは特に役割の近いバスクラリネットと完全に一体化する感覚は重要です。ファゴットが抜けた低音の響きは物足りなく寂しいものです。そして前述のサウンドバランスが悪いとファゴットの効果を感じにくくなってしまいます。
・周りの楽器との調和が大事
従ってファゴット単独で目立つというより、同じ動きの楽器と調和してより豊かな音を作るという考え方が良いです。慣れてきてその効果を実感できるようになればファゴットを吹くのが楽しくなってきます。
もちろんファゴット単独の音やソロではしっかりファゴットの音色を響かせます。ファゴットは個性の強い楽器で、その音色、柔らかな響き、歌い込む表現、スタッカート等はファゴットにしか出せません。
ファゴットは大音量トゥッティを除いて、ホールでは響きに包まれて意外と存在感があり聞こえています。どうせ聞こえないと消極的にならず、吹奏楽サウンドの一員として周りとのアンサンブルに意識を置き、1つ1つの音を大事にしましょう。
譜面に書かれているのだから、本来は吹奏楽としてファゴットが混ざった響きが必要なのです。
・ファゴットは演奏会ホールのステージで一番活きる
関連:Option指定について
学校現場では予算や人数などの都合でどうしてもファゴットが取り入れられない場合もあると思います。一般団体でもファゴットが不在で常に募集している団体も多いです。その場合は省略して他の楽器で代用するしかありません。
曲によってはOption指定になっています。Option指定は、吹奏楽自体にファゴットが「なくてもいい」のではなく、あるべきだが予算などの実情に合わせて「省略できるようにした」のだと思っています。
それを読み違えて「吹奏楽にはファゴットはなくてもいい」とネガティブに捉えられてしまうとすれば悲しいことです。そうやって培った吹奏楽観が広まると、ますます「ファゴットを揃えよう」という発想が起きにくくなってしまいます。
吹奏楽がより手軽に演奏されるためにもファゴットが省略される事があるのは仕方ないことです。しかし、吹奏楽そのものは様々な制限がある「スクールバンド」のために存在しているわけではないのです。したがって吹奏楽自体にファゴットは必要、このことに変わりはありません。
・吹奏楽に必要な楽器、ファゴット
まとめ
選曲、バランス、技術と意識、これらのどれが欠けてもファゴットは埋もれ、存在意義を見失ってしまいます。
これらがうまくいっている団体は、ファゴットの優美な響きがサウンドに効果的にブレンドし、活かされています。ファゴット奏者も主体的な意識を持ち、音1つ1つを大切にして音楽表現を楽しむことができます。この感覚はぜひ知ってほしいです。
吹奏楽は管楽器が主体の合奏形態であり、一管楽器であるファゴットだけがいなくてもいい理由なんてありません。現代吹奏楽の始まりとされるホルスト作曲の「吹奏楽のための第一組曲」からファゴットは編成に入っています。ファゴットは吹奏楽というパレットの色の1つであることは疑いようもなく、
ファゴットがなければ吹奏楽のサウンドは完成しません。
今回書いたことはあくまで私見ではありますが、もしファゴットが必要かどうかを疑う状況になったら、上記3点に問題がないかを検証してみて下さい。ファゴットで豊かに生きている人間として、ファゴットが正しく認識されて効果的に使われることを願ってやみません。
・ステージ上のファゴット
P.S.ファゴットが大活躍する吹奏楽曲といえば
■祝典のための音楽(F.スパーク) ※特に4:10~
■Music for a Festival - Philip Sparke; Musikkapelle Villnöss - Osterkonzert 2012
https://www.youtube.com/watch?v=Zq9XsgYlM6U