【吹奏楽とファゴット(7)】吹奏楽でファゴットの代用をする場合の楽器は?
吹奏楽でファゴットが居ない場合に代用の候補となる楽器について、個人的な考えをまとめました。
はじめに
吹奏楽では様々な事情でファゴットが居ない場合もあると思います。その時に代用しうる楽器について、個人的な考えをまとめます。
なおファゴットは基本的に他の楽器と同じフレーズを演奏している事が多いため、ここでは曲全体での代用ではなく、ソロや音が薄くて目立つ部分など局所的な代用を想定しています。
前提:ファゴットの音域と音色
ファゴットはテノール、バスといった中低音域の広い音域を担当する楽器です。ファゴットの標準的な音域は Bb1からBb4 ぐらい、ほとんど使いませんが最高音は D#5またはE5 です。
ほぼ同様の音域幅を持つ楽器は、
- バスクラリネット(LowCまで出るロング管なら最低音も同じ)
- バリトンサックス(低音と高音が不足するがコア音域がほぼ同じ)
- ユーフォニアム(特に4ピストンで低音域も埋まる)
- トロンボーン(特にテナーバス、バス)
- ホルン(特に中高音域で)
ファゴットの音の特徴は、
- 音域に対して音の芯自体は細め
- 芯の周囲に柔らかい響きをまとっている
- 指向性は強くなく、周囲へ響き拡散型
- 溶け込みやすく客観的で控えめな存在感
- 爆音は出せない
- 極端な弱音が苦手(特に低音域)
- アタックやスタッカートは歯切れが良い(反応が速い)
ファゴットの音域ごとの音のイメージは
- 低音域(大体Bb1~A2)は荒い成分があるが落ち着いた響き
- 中音域(Bb2~A3)は柔らかく包まれた落ち着いた響き
- 高音域(Bb3~A4)はふわっとした最も柔らかい響き
- 最高音域(Bb4~)は張り詰めた鋭い音
前置きが長くなりましたが次項から本題に入ります。
音域別の代用楽器候補
ファゴットは音域が広くて音域ごとのキャラクターが異なるため、音域別に解説していきます。
低音域
バス音域のイメージ、主にベースラインや低音域での伸ばしやソロの場合。
◆バスクラリネット
ビブラートをかけず、比較的静かな落ち着いた場面でのソロや、伸ばしや歯切れが良い動きの場合に向いています。元々一緒の動きが多いし、木製管の低音楽器として質感的にファゴットに一番近い存在感が出すことができます。響きはあるものの他の低音楽器ほど音が太くないため、他の木管楽器を支えるのにも向いています。
(ファゴットよりも弱音が得意であることも特徴です。オケでもチャイ6の該当部で代用が多い)
木管五重奏で代用する場合も、常にベース的ではないにしても総合的にはバスクラリネットが良いと思います。
◆バリトンサックス
ビブラートをかけたりソリスティックの存在感を出す場合、気迫感や厚めの響きが必要な場合に。バスクラリネットよりも主体性が強く音量が大きめの場合で使うイメージです。但しオーボエ等の高音木管を支えるには少し太くて強いです。
◆コントラバス、チューバ(場合によってはミュート付き)
ファゴットは基本使用の木管中でも最低音が一番低いので、音域が足りない場合はこれらのより低い音を出せる楽器を使うしかありません。チューバはヘ音記号譜そのまま、コントラバスの場合は記譜からオクターブずれます。いずれもファゴットより物理的な音の太さや響きの厚みが大きいので控えめが良いです。
◆コントラアルトクラリネット、コントラバスクラリネット
コントラバスやチューバよりも、同じ木管のリード楽器の方が音の雰囲気が近いです。オプション的な楽器でファゴット以上に稀かもしれませんが、これらがあるならば選択肢になります。
(ファゴットが1人の時に2ndはコントラバスクラ代用の経験あり)
中音域~高音域
テノール音域のイメージ、良く使う音域で通常のソロとして使われる音域の場合。
◆アルトクラリネット
ビブラートをかけず、比較的静かな落ち着いた木管的な響きの場面でのソロや伸ばしや歯切れが良い動きに向いています。音が太すぎず存在感も強すぎず、オーボエなど他の高音木管セクションを支えるにも合います。意外と低い音まで出せる楽器で、A.リードの曲では一緒の動きもあり、個人的にはキャラクターはファゴットに一番近いと思っています。
◆テナーサックス(、アルトサックス)
ビブラートをかけたり、木管的な響きで少し主体性・存在感が強めの場合に。アルトクラがいない場合やそれだと(Cl属同士で)埋もれる場合にも音色の区別として選択肢になります。哀愁を帯びた柔らかなファゴットに音色的な雰囲気は比較的近いです。ただ主体性や存在感が強い音になるので基本的に抑えめになります。
◆ホルン
音色の柔らかさを重視し、あまり激しく動かない場合はホルンも音色が近くて合います。もちろん金管的ではなく木管五重奏のような落ち着いた吹き方のホルンのイメージです。柔らかい音の伸ばしで木管セクションを支える場面などで、オーケストラのサウンド感にも近くなります。
◆ユーフォニアム
音色の柔らかさを重視しつつ、ホルンより運動性がある場合に。ただ響きが太く豊かで金管楽器として存在感も強く、素朴なファゴットとキャラクターが異なり、木管セクションとはブレンドしにくいとは思います。同じヘ音記号譜がそのまま使えるのが一番のメリットで手っ取り早い代用候補です。(逆にファゴットの譜面が無い時にユーフォニアムの譜面を使う時もあり)
◆トロンボーン(ミュート付き)
伸ばしなどで音の動きが少なく、静か目で客観的な音の場合は、トロンボーンで強さを抑えた細めの音色が使えます。特に複数使用によってハーモニーに向いています。ミュートの種類(には無知ですが)によっては歯切れの良さも出せる気がします。同じヘ音記号譜がそのまま使えるメリットがあります。
◆フルートの低音域
フルートの最低音(C4かB3以上)以上の音域で、落ち着いた温かい響きの場合はフルートの低音域も意外と合います。ビブラートも有効です。但し埋もれやすいので、木管中心のシーンなどで周囲が静かな場合限定です。
(ストラヴィンスキー「火の鳥」ではファゴットが上昇してフルートに受け継ぐ部分あり)
最高音域
ストラヴィンスキー「春の祭典」のような極端に高い音域の場合。
◆アルトサックス、テナーサックス、イングリッシュホルン
この音域はほぼソロになるはずでビブラートはありになるでしょう。ファゴットでは結構鋭い音になるの音域なで、音の芯とある程度の柔らかさとソリスティックさを持つこれらの楽器が合うはずです。
おわりに
ファゴットの代用となる楽器を音域別に紹介しました。
基本はバスクラリネット、アルトクラリネット、バリトンサックス、テナーサックス、ユーフォニアムですが、より細かい選択肢も書いてみました。
選択のポイントは以下が基準になると思います。
- ビブラートをかけるか
- 主役系か脇役系か
- 木管セクションとのブレンド
- 音の運動性や歯切れ
吹奏楽の各楽器というパレット1つ1つは魅力的な色で構成され、その中でもファゴットは個性的な音の楽器です。
その音はファゴットにしか出せず完全に代用することはできませんが、なるべく近くて効果的な音を出すための選択肢の考え方として、私見ではありますが参考になりましたら幸いです。
コメントを書く
※絵文字は対応していません。
※攻撃的、乱暴なコメントはしないで下さい。