【演奏会感想】フランス・プログラム・シリーズ 第1回 -バソンによる近代フランス音楽の色彩復古-

        音楽-管弦楽・吹奏楽

5/1(土)に名古屋市にあるしらかわホールで開催された愛知室内オーケストラの演奏会を聴きに行きました。一番の特徴は貴重なバソンを使用していることです。その演奏会を聴いて感じたことについて、バソンに偏った視点で書きます。

/diary_picture/202105/101.jpg



演奏会の概要と聴きに行く経緯

公演タイトルは「フランス・プログラム・シリーズ 第1回 -バソンによる近代フランス音楽の色彩復古-」、ファゴットセクションが全てバソンで吹くというとても貴重な演奏会です。

今日ではファゴットが一般的ですが、ラヴェルやドビュッシー等フランスの作曲家はバソンをイメージして作曲しています。そのオリジナルに近いサウンドを聞くことができるのはフランス音楽を語る上で重要になってきます。

プログラムは以下となっています。

C.ドビュッシー
 /牧神の午後への前奏曲
 /小組曲

A.ジョリヴェ
 /バソン、弦楽合奏、ハープとピアノのための協奏曲

M.ラヴェル
 /組曲「マ・メール・ロワ」
 /亡き王女のためのパヴァーヌ
 /クープランの墓

協奏曲はバソンの第一人者の小山清先生のソロ演奏です。マ・メール・ロワでは日本に3本しかないコントルバソンも登場します。

ラヴェルやドビュッシーは個人的に好きな作曲家の第1位、第2位でもあり、ファゴットの柔らかいイメージのサウンドとは違う本来のサウンドを再現する試みに強く興味を持ちました。

日本はおろか本国フランスにもバソン奏者はとても少なく、日本でバソンによるオーケストラはまさに今ここでしか聴くことができないとても貴重なものです。

愛知県での開催ということで、東京都では緊急事態宣言が出ており不要不急の外出自粛、都県を跨ぐ移動の自粛が要請されているなど遠出がはばかられる状況のため、聴きに行くかとても悩みました

ですがこれを逃すと次いつ同じような機会があるか分からないことや、この演奏会の価値を理解しこの経験を周りに伝えたいという強い想いから、事前のPCR検査(結果はもちろん陰性)等できる限りの感染症対策をして行くことにしました

/diary_picture/202105/102.jpg

バソンについて

まずバソンについて少し解説をします。

ファゴットはドイツのヘッケル式であるのに対し、バソンはフランスのビュッフェ式の楽器です。ビュッフェはクラリネットで有名なビュッフェ・クランポン社のことです。

大雑把に言うとファゴットはドイツらしい柔らかく重厚な響きを重視した楽器、バソンはフランスらしい軽妙な表現に適した楽器、といえるのではないでしょうか。

両社は形状こそ似ていますが材質、運指、リードなどが異なり、全く別の楽器といっていいほど違いがあり、ファゴット奏者がいきなりバソンを吹けるというものでもありません。

・ファゴットとバソン(My所有楽器)/diary_picture/202105/105.jpg

1970年にカラヤンがパリ管の音楽監督に就任したことをきっかけに世の中でバソンからファゴットへの転向が進みました。ファゴットの方が音量や音程の安定性など機能的な面で有利だったということがあります。

色彩豊かな近代フランス音楽に適していたバソンがファゴットに変わることで、そのサウンドが大きく変わってしまったことになります。近年はデュカスというメーカーがファゴット奏者を意識した仕様にアプローチする動きもあります。

/diary_picture/202105/104.jpg

演奏会の感想

バソンを使ったオーケストラを聞いて思ったことについてまとめます。

ファゴットとバソンは響きが全然違うので、オーケストラのアンサンブルそのものが変わってしまうぐらい大きな変化だと思いました。

ファゴットは柔らかく温かい響きで木管セクションを下から陰ながらに支えますが、バソンは細くて明るい響きでソリスティックに存在感を出している印象でした。

オーボエと一緒に演奏するとファゴットは柔らかく包み込みますが、バソンはオーボエと同質になり一体化した感じがしました。良い意味で厚すぎずすっきりした音は、ダブルリードとしての統一感を生み出していました。

チェロとの関係にも違いがあります。弦楽器と調和して溶け込みやすいファゴットに対して、バソンは弦楽器と張り合っているような主体性を感じる時がありました。

そしてアンサンブルの中からたまに意志の強い明るい音が抜け出してくる感じもありました。これはファゴットでは感じにくいことで、オーケストラの中に明瞭な色彩が一色増えたような感覚でした。

歌い方については、ファゴットの太い響きや深みのダイナミクスを利用しているのに対して、バソンは軽々と歌い上げるようなキャラクターの印象を受けました。特にテノール音域はファゴットは一番柔らかいですが、バソンは明るい響きで正反対です。

大雑把に言うとフレンチホルンのような響きからイングリッシュホルンのような響きになった印象です(「フレンチ」から離れるのは面白い)。特にシとド#は明るく抜けてきます。

フランスではこの明るい音がイメージされていたとなると、ソロとしての聞こえ方もアンサンブルの中での役割も随分変わってしまうものだと感じました。クラリネットやチェロ等アンサンブルの関係性が近い楽器がバソンの響きをどのように感じるのか興味深いところです。

そしてファゴットと比べて確かにちょっと不器用な印象も受けました。音程の取りにくさ、運指の難しさの雰囲気、オケの音量が大きい時の埋もれやすさを感じました。これがカラヤンに敬遠された要素なのでしょう。

しかしこの明るさの中に優しさのある独特の気高い響きは魅力的です。客観的なファゴットに対し主観的なバソンが主張して抜けてくるのは心に響く表現力があります。フランスの豊かな色彩のパレットの一色とそのアンサンブルを知ることができました。

小山先生のソロ演奏も難曲でしたが大変見事で聴き入りました。現代曲らしい悲鳴の高音域や激しい動き、ゆったりした甘美なメロディー、バソンの魅力と可能性が詰まっていました。陸前高田のボネを使ったアンコールも心にしみました。音楽は人の心に伝えるものだと改めて実感しました。

マ・メール・ロワのソロで使われたコントルバソンについては、正直コントラファゴットと比べて若干明るい程度であまり違いを感じませんでした。もしかしたら形状から比較的新しい楽器であることも関係あるのかもしれません。とはいえとても貴重な体験で息をのみました。

/diary_picture/202105/103.jpg

終わりに

このようにラヴェルやドビュッシーらがイメージしていたフランスの響きを知るきっかけになりました。バソンに相当の意識を傾けて聞いたとはいえ、想像以上にサウンドに与える影響が大きいと感じました。

ドイツらしい、フランスらしい音響をそれぞれ追求して異なった習慣のサウンドができていた。フランスの明るい響きを知った上で、それぞれに異なった味わいがあり魅力的です。

バソンも嗜む者としては、ファゴットで聴き慣れている音楽がバソンになることの意味や価値、可能性をこれからも伝えていきたいです。とても刺激を受けられた演奏会でした。

そしてフルート、オーボエ、イングリッシュホルン、フレンチホルンなどの楽器にとっても緊張感のあるプログラムでしたが、それぞれが本当に素晴らしかったです。とても暖かい良い雰囲気の演奏会でした。

コロナ禍での演奏会の開催は困難があり、私自身も久しぶりの生演奏の鑑賞でした。生の音楽が聴ける喜びをかみしめて、いつも以上に感情豊かに聞くことができた気がしています。

色々な意味で貴重な演奏をありがとうございました。またぜひ続編をお願いしたいです。

P.S. 可能ならば今回の貴重な演奏会の録音をCD発売してほしいです。

・Myバソン/diary_picture/202105/106.jpg



カテゴリ:音楽-管弦楽・吹奏楽 |  コメント(0)


記事へのコメント

コメントを投稿

※絵文字は対応していません。
※攻撃的、乱暴なコメントはしないで下さい。

名前(*)

コメント(*)

(*)入力必須