【ファゴット】アルメニアンダンス・パート2のLowDb-Ebトリルは可能
ファゴットはトリルに制限の多い楽器として知られています。そして問題のトリルが吹奏楽の名曲「アルメニアンダンス・パート2」の3曲目「ロリの歌」に出てきます。それをどう対処したかをまとめます。
問題のトリル
「アルメニアンダンス・パート2」の「ロリの歌」の冒頭に2回、ファゴットの1stと2nd両方にLowDb-Ebのトリルが出てきます。
・問題のトリル
このトリルは可能でしょうか?
普通の運指でやろうとすると、左手の親指と小指の両方を同時に隣のキーにスライドさせる形になり、とても円滑には演奏できません。実はこれはファゴットが困難なトリルの1つとして知られています。
ファゴットをここまで活かしてくれて理解のあるはずのリード氏が、なぜ通常では不可能なトリルを書いたんでしょうね…。しかもこの部分は他の楽器が誰もトリルをやっていないので、ファゴットがやらないとトリルがなくなってしまうのです。
過去の演奏では
個人的にアルメニアンダンスパート2を4回演奏したことがあります。その時は毎回指揮者にこのトリルは不可能だと訴え、1stはEbの音、2ndはDbの音の伸ばしに変えました。トリルは誰もしない時もありましたが、バスクラに代わってもらう時もありました。
代わりにコントラファゴットでできないかと聞かれたこともありますが、コントラファゴットもこの音域のDb-Ebトリルはファゴットと違いリングキーがない関係で円滑にはできません。特に右手側にEb替え指キーがない古い楽器では不可能です。
・キー機構が微妙に異なるコントラファゴット
つまり通常は、トリルするならバスクラに変わってもらうのが無難ということになります。
方法がないか調べて試す
そこで国際ダブルリード協会(IDRS)サイトの運指表を調べてみました。トリルについては次のURLから辿れます。
http://www.idrs.org/resources/BSNFING/FINGTRLL.HTM
該当運指のページには以下のように書かれています。(抜粋)
Prepare a wedge of wood, cork, plastic or cardboard.
Eb-tr Db-wedged
x x x | x x x F
E
C D引用:Heckel C#2-D#2 - Heckel Bassoon Trills and Shakes by Note Names
※上記英語部分の直訳:木、コルク、プラスチック、段ボールなどの「くさび」を用意する
つまり、LowDbキーを何かでこじあけた状態にして、LowCの運指に小指Ebキー開閉でトリルをする、ということです。
そういえばどこかでSUICAなどのカードを挟んでやったということを聞いたことがあるのを思い出しました。Dbキーを開いてトーンホールとタンポの間に直接カードを挟み、開きっぱなしの状態にします。
カードを挟むと次のような画になります。一見カードがトーンホールをふさいでるように見えますがちゃんと隙間があいています。
・LowDbキーにカードを挟む
実際に上記運指でトリル(LowCの運指に小指Ebキー開閉)をやってみると・・・
ちゃんとトリルできました!!音程は全然違和感がなく、今まで聴いたことない音同士のトリルなのでなんだか新鮮です(笑)。これで一応はファゴットでも不可能ではないということになります。
そしてカードをいつ外すかも問題です。2回目のトリルの次のフレーズがこの状態のままだと音程、音質がおかしくなります。
フェルマータの休符の間に目立たないようにこっそりと抜くのが無難ですが、音楽が静まった雰囲気を損なわないようにする必要があります。または次のフレーズの"Eb・Eb・Eb・Eb・E・Db・C・E"の間に、Ebは左手だけで吹いて右手で外すことも方法の1つです。
終わりに
このようにこの部分のLowDb-Ebトリルはファゴットでもできることが分かりました。ちょっと無理やりな方法ですが、標準的な方法がないのでこのように工夫するしかありません。5回目の演奏では早速この方法を使いました。
なお、カードはクレジットカードみたいに印字部分がデコボコしていると管やタンポにその跡がついてしまいそうなのでSUICAなど完全に平面のカードが良いと思います。こじあけることでキーのバネがおかしくなるかもしれないので、装着時間はなるべく最短に留めたいですね。
・これで名曲の問題を攻略、楽しく演奏しましょう
P.S.同曲にはフルートにも似たような通常では不可能なトリルがあるみたいです。前回の演奏ではテープでキーを固定して演奏していたようです。